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犬の前十字靭帯断裂の原因と症状、治療について|獣医師が解説|秦野市のみかん動物病院

神奈川県秦野市・伊勢原市・平塚市・中井町・二宮町・小田原市の皆様こんにちは。
神奈川県秦野市のみかん動物病院、獣医師森田です。

前十字靭帯は、膝関節の安定性を保つために不可欠な役割を果たす靭帯の一つです。人間の膝と同様に犬の膝関節内部にも存在し、脛骨(すねの骨)と大腿骨(ももの骨)が正しい位置に保持されるように支えています。
この靭帯が断裂すると膝関節が不安定になり、犬が歩行時に痛みを感じる原因となります。

今回は犬の前十字靭帯断裂について、原因や症状、診断、治療法などを詳しく解説します。

 

■目次
1.原因
2.症状
3.診断方法
4.治療方法
5.予防法やご家庭での注意点
6.まとめ

 

原因

犬の前十字靭帯断裂は、加齢が主な影響因子の一つとされています。年齢と共に前十字靭帯が徐々に劣化し、体重増加、運動による負担、急な動作での踏ん張りなど、膝に持続的な負荷がかかることが原因です。
日常の軽い運動中にも靭帯を損傷する場合があり、特に中高年齢(5〜7歳)で肥満傾向にある犬や、長期間ステロイドを服用している犬ではリスクが高まります。
これはゴールデン・レトリーバー、ラブラドール・レトリーバー、ハスキーといった大型犬種に多く見られます。

一方で、トイ・プードルやポメラニアンなどの小型犬種でも発症するケースがあります。若い小型犬での発症は、遺伝的な要因で膝の関節が脱臼しやすい(膝蓋骨内方脱臼またはパテラとも呼ばれる)状態が多く、それが前十字靭帯断裂の発症に繋がることがあります。

 

症状

前十字靭帯断裂は、靭帯の一部が切れてしまう部分断裂」と、完全に断裂する完全断裂」の2つのタイプに分類されます。
どちらの場合でも犬が突然脚を引きずり始める、地面に脚をつけることを避ける、普段と異なる歩行をするなどの症状が現れます。

治療が遅れると、部分断裂が完全断裂へと進行し、犬が立ち上がれなくなるリスクが高まります。
また、どちらかの脚で断裂が発生すると約50%の確率でもう一方の脚でも同様の断裂を起こしてしまうといわれています。

さらに、前十字靭帯の断裂が原因で膝関節の半月板が損傷し、それが変形性関節症の発症に繋がり、強い痛みを引き起こすこともあります。

 

診断方法

診断には飼い主様からの詳細な問診院内で犬の歩き方を観察する歩様検査、触診、レントゲン検査、関節鏡検査などが含まれます。

レントゲン検査では前十字靭帯の断裂によって脛骨が前方に滑り出る様子や、膝関節内に異常な関節液が貯留している(ファットパッドサイン)状態が見られます。

関節鏡検査は、病院によっては実施が難しい場合もありますが、前十字靭帯断裂の確定診断には非常に有効な方法です。関節鏡は小さく切開した皮膚から関節内部に挿入し、直接的に関節内の状況を評価できます。
この検査により、断裂した靭帯や半月板の損傷、関節内の変性状態を直接確認できます。

 

治療方法

治療は大きく分けて、内科的治療(保存療法)外科的治療があります。

内科的治療は、おおむね1ヶ月間の安静に加え、痛み止めや関節用のサプリメントなどの投与を行います。これは軽度の損傷の場合や、手術が適さない高齢の犬、小型犬の部分断裂に適用されます。しかし、中〜大型犬や靭帯の完全断裂がある場合には、外科的治療の方が効果的であるとされています。

 

外科的治療には、

脛骨高平部水平化骨切り術TPLO法)
関節外法(ラテラル・スーチャー法)
脛骨粗面前進化術TTA法)

などの手術方法があります。

 

これらの手術は、膝関節の安定性を回復させることを目的としています。

<脛骨高平部水平化骨切り術(TPLO法)>
脛骨の近位に骨切りを行い、脛骨高平部の角度を水平に矯正する手術です。この手術によって、元々後方に傾いていた脛骨の上に乗っていた大腿骨が、脛骨が水平化されることにより尾側へ滑り落ちないようになるため、膝の関節が安定化します。
手術後、切開された骨が完全に癒合するまで約2〜3ヶ月の期間は、激しい運動を避ける必要があります。しかし、骨が正しく癒合すれば、犬は以前のように走ったり、ジャンプしたりできるようになります。

 

<関節外法(ラテラル・スーチャー法)>
断裂した前十字靭帯の機能を人工的に補う手術です。この手術はファイバーワイヤーなどの強度の高い糸(=人工靭帯)を使用し、大腿骨遠位にある種子骨と脛骨に穴を開け、糸を輪のようにかけて靭帯の機能を模倣し、膝関節を安定化させます。
この方法では人工靭帯で一定期間安定化を図り、関節周囲の組織が自身で安定するのを待ちます。

 

<脛骨粗面前進化術(TTA法)>
脛骨の上部(高平部)を変位させることなく、膝関節の力学的安定化を図る手術です。この手術では、脛骨の上部、特に脛骨粗面(膝蓋腱が付着する部分)を切断し、その角度を適切に調整後、金属製のプレートを用いて固定します。このプロセスにより、膝関節の力学的バランスが改善され、前十字靭帯の欠損によって失われた安定性が補われます。
手術中に脛骨に生じた隙間は、スペイサーと呼ばれる金属製の部品で埋められます。このスペイサーは隙間を効果的に埋め、組織の癒合を促す役割を担います。

 

予防法やご家庭での注意点

前十字靭帯断裂を予防するためには、過度な負荷がかかる活動を避けることが重要です。具体的には、階段からの飛び降りや、フリスビーをジャンプしてキャッチするなど、膝への負担が大きい運動を控えましょう。また、肥満は前十字靭帯断裂のリスクを高めるため、適切な体重管理を心がけることも予防に効果的です。

特に、上述したように一度前十字靭帯を断裂した犬の約50%は反対側の靭帯も断裂しやすいため、日常生活での細心の注意を払いましょう。

 

まとめ

犬の前十字靭帯断裂は、適切な治療を行うことで、愛犬が元の生活に戻ることが可能な疾患です。
しかし、放置すると半月板損傷や重度の関節炎を引き起こす可能性があるため、愛犬の行動や歩き方に異変を感じたら、早期に獣医師の診断を受けることが最も重要です。

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