症例紹介

整形外科

膝蓋骨脱臼(グレード3)

こんにちは。神奈川県秦野市の「みかん動物病院」獣医師の森田です。

膝蓋骨脱臼(パテラ)は小型犬に多く見られる後ろ足の病気です。なかでもグレード3は病態が進行しており、治療の選択肢として「手術」が選ばれることも少なくありません。

今回は、犬の膝蓋骨脱臼グレード3の状態、症状、診断方法、治療、そして当院での手術例まで詳しく解説いたします。

 

■目次
1.膝蓋骨脱臼とは|グレード3はどんな状態
2.グレード3で見られる症状・歩き方のサイン
3.診断|触診とレントゲンで調べること
4.治療と手術|グレード3で検討される術式
5.術後のケアとリハビリ・回復経過
6.膝蓋骨脱臼グレード3の症例
7.まとめ

 

膝蓋骨脱臼とは|グレード3はどんな状態

犬の「膝蓋骨脱臼」とは、一般的に「パテラ」とも呼ばれる病気で、後ろ足の膝の皿(膝蓋骨)が、本来あるべき溝から内側または外側に外れてしまう状態を指します。

トイ・プードルやポメラニアン、チワワといった小型犬に多く、生まれつきの骨の形状が原因となる「先天性」のものと、高い所からの落下や転倒などの衝撃が原因となる「後天性」のものがあります。

獣医療において、膝蓋骨脱臼はその進行度合いに応じてグレード1からグレード4までの4段階に分類されています。

グレード1 普段は正常な位置にあるが、力がくわわると脱臼する。手を離すと自然に元の位置に戻り、日常生活で症状が出ることはほとんどない。
グレード2 膝を曲げ伸ばししたときなどに時々脱臼する。犬が自分で足を伸ばしたり、手で押し戻したりすると元に戻るが、徐々に骨の変形が進む恐れがある。
グレード3 膝蓋骨が「常に脱臼した状態」。手で押して一時的に正常な位置に戻すことはできるが、またすぐに外れてしまう。
グレード4 常に脱臼した状態で、手で押しても元の位置に戻らない。骨の変形も深刻で、足を曲げたまま歩くようになる。

 

このように、グレード3は、膝蓋骨が常に脱臼している点で、グレード2以下とは大きく異なります。

この状態が続くと、膝に継続的な負担がかかり、次のような変化が起こる可能性があります。

・膝関節に負担がかかり続ける
→ 周囲の筋肉や靭帯のバランスが崩れ、進行すると骨の変形を引き起こしやすくなります。
・外れた膝蓋骨が関節周囲を刺激し続ける
→ 関節軟骨がすり減り、関節炎が進行しやすくなります。
・膝を正常に曲げ伸ばししにくくなる
→ 太ももの前側にある筋肉が萎縮して細くなり、後ろ足全体の筋力低下につながります。

膝蓋骨脱臼(グレード4)についてはこちらで解説しています

 

グレード3で見られる症状・歩き方のサイン

膝蓋骨脱臼はグレードを問わず、後ろ足の歩き方や日常の動作に変化が表れることがあります。代表的なのは「歩いている途中で後ろ足を上げる」「スキップするように歩く」「足を後ろへ伸ばす」といった症状です。

グレード3では、膝蓋骨が普段から外れた状態になっており、手で元の位置に戻すことはできても、再び外れてしまいます。
そのため、飼い主様が気づきやすい歩行の異常や、生活上の変化が表れるようになります。
グレード3で特に見られやすいのは、以下のような変化です。

✓ 内股歩行が持続している
✓ 後ろ足を内側に曲げ、腰を落としたように歩く
✓ 後ろ足に力が入りにくく、歩行異常が常に見られる
✓ 後ろ足を地面につけにくい状態が増える
✓ 後ろ足の筋肉が細くなっている

ただし、症状の現れ方には個体差があり、当てはまる項目があるからといって必ずしもグレード3のパテラとは限りません。また、脱臼していても目立った変化が見られない犬もいます。

しかし、歩行の違和感を放置すると、関節炎の進行や膝への負担増加につながる可能性があります。普段と違う歩き方や行動が続く場合は、早めに動物病院へ相談しましょう。

気になる症状が見られる場合は、動画を撮影したうえで動物病院を受診すると、診察時の参考になります。

 

診断|触診とレントゲンで調べること

動物病院では、膝蓋骨脱臼かどうかを確かめ、グレードを判定するために、主に「触診」と「レントゲン検査」を実施します。

 

触診
触診では、獣医師が犬の足をやさしく触り、膝蓋骨がどの位置にあるか、手で動かしたときにどのように動くかを確認します。

グレード3の場合、触った時点で膝蓋骨が本来の溝から外れており、手で元の位置に押し戻せても、犬が足を少し動かすと外れてしまうことが多くあります。このような傾向からグレードの判定を行います。

また、このときに関節の緩みや周囲の筋肉の緊張度合いも同時に評価します。

 

レントゲン検査
レントゲン検査は、関節や骨の詳しい状態を把握するために実施します。
レントゲン写真からは、膝蓋骨がどの程度ずれているかだけでなく、膝蓋骨がはまるべき「大腿骨の溝(滑車溝)」がどれくらい浅くなっているか、スネの骨が内側にどれほどねじれてしまっているかといった、骨の変形度合いが見られます。

また、膝への異常な負担から起こる「前十字靭帯断裂」など、併発疾患が起きていないかも確認します。

 

当院ではこれらの検査結果などを総合的に分析し、状態に応じた治療計画を検討します。

前十字靭帯断裂についてはこちらで解説しています

 

治療と手術|グレード3で検討される術式

膝蓋骨脱臼の治療には、お薬やサプリメント、体重管理などで様子を見る「保存療法」と、根本的な解決を目指す「外科手術」があります。

しかし、グレード3と診断された場合、基本的には外科手術が推奨されるケースが多くあります。骨の変形がさらに進むと、グレード4へ移行したり、前十字靭帯断裂を併発して激しい痛みを伴うようになったりする恐れが高まるためです。

手術では、一頭一頭の骨や関節の状態に合わせて、複数の術式を組み合わせて行います。代表的な術式には以下のようなものがあります。

 

滑車溝造溝術(かっしゃこうぞうこうじゅつ)
膝蓋骨が収まる大腿骨の溝が浅くなっているため、この溝を削って深くし、皿が簡単に外れないように安定させる手術です。

 

内側筋群解放術(ないそくきんぐんかいほうじゅつ)
常に内側に脱臼していることで、膝の内側の筋肉や組織が縮んで硬くなっています。この突っ張ってしまっている組織を適切に緩めてあげることで、膝蓋骨が再び内側に引っ張られて再発するのを防ぎます。

 

脛骨粗面転移術(けいこつそめんてんいじゅつ)
膝蓋骨につながっている靭帯の付着部(スネの骨の突起部分)を一度切り離し、真っ直ぐな位置になるようにずらしてピンで固定し直す手術です。これにより、引っ張られる力の方向を正常に戻します。

 

これらのような軟部組織へのアプローチと骨へのアプローチを組み合わせ、安定した整復を目指します。
若いうちに関節の構造を正常に整えてあげることは、将来的な「歩く」「走る」といった運動をサポートすることにつながります。

大腿骨矯正骨切り術についてはこちらで解説しています

 

術後のケアとリハビリ・回復経過

一般的に、手術後は骨が安定するまでの間、数日から1週間程度の入院が必要となります。

入院中は徹底した痛み管理(ペインコントロール)を行いながら、安静を保ちつつ、獣医師や愛玩動物看護師の見守りのもとで少しずつ足を動かす練習を始めます。早期から適切な刺激を与えることで、筋肉の衰えを防ぎ、関節の可動域を維持することにつながります。

退院してご自宅に戻られた後は、「安静」を徹底し、ケガのないように努めましょう。

ケガや痛みの防止の一例として、以下のような工夫ができます。

・フローリングに滑り止めのマットを敷く
・ソファへの上り下りを制限する
・激しいジャンプやダッシュをさせない
・外出時は、リードを短めに持ち、歩く距離を制限しながらゆっくり歩く

定期的な通院で骨の癒合状態を確認しながら、徐々に行動制限を解除していきリハビリテーションを進めていきます。

当院は、入院施設を完備し、経過観察後のリハビリテーションやホームケアのアドバイスも行える体制があります。愛犬の足に負担をかけない過ごし方についてもお気軽にご質問ください。

 

膝蓋骨脱臼グレード3の症例

実際に当院で治療を行った「膝蓋骨脱臼」グレード3の手術例をご紹介します。

 

<手術(整復)前の状態>

お散歩のときに後ろ足を不自然に伸ばしたり、上げたりする仕草が見られるようになった」と飼い主様が気にされて、当院を受診された例です。

診察では、膝蓋骨が内側に脱臼しており、手で圧力をかけると一度は戻るものの、手を離すとすぐにまた外れてしまう典型的なグレード3の状態を確認できました。

膝蓋骨脱臼グレード3手術前のレントゲン画像:赤丸のついている箇所の膝蓋骨が内側に外れている様子

また、レントゲン画像でも大腿骨の正面から内側に膝蓋骨が外れていることが確認されました。

 

<手術(整復)後の状態>

本ケースでは、以下の3つを組み合わせて処置を行いました。

・骨の溝を深くする「滑車溝造溝術」
・内側の突っ張りを和らげる「内側筋群解放術」
・術後の安定性を高めるために靭帯の付着部を正しい位置に固定する「脛骨粗面転移術」

膝蓋骨脱臼グレード3手術後のレントゲン写真:赤丸のついた箇所の骨が中央付近に位置している

手術後のレントゲン画像では、膝蓋骨が本来あるべき中央付近に収まっているのが確認できます。内側にねじれていた骨の並びを矯正し、内側への引っ張りの解消を目指した処置です。

脛骨粗面転移術処置後のレントゲン写真:ピンで骨を支えている様子

膝蓋骨が外れにくくなるように骨の一部を正しい位置へ移し、脛骨粗面転移術にて安定するまでピンで固定しました。

 

まとめ

犬の膝蓋骨脱臼グレード3は、放置するほど体への負担が積み重なっていく恐れがあります。グレード4への進行や前十字靭帯断裂を併発する前に、適切な治療をしてあげることが大切です。

当院は整形外科の診療に力を入れており、診断から手術、リハビリまで一貫して対応できる体制を整えています。セカンドオピニオンをご希望の方も、お気軽にご相談ください。

 

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