症例紹介
膝蓋骨脱臼(グレード4)
こんにちは。神奈川県秦野市の「みかん動物病院」獣医師の森田です。
膝蓋骨脱臼は、一般的に「パテラ」とも呼ばれ、後ろ足の膝にある膝蓋骨が本来の位置から外れてしまう病気です。
膝蓋骨脱臼は状態によってグレード1〜4に分類され、グレード4はそのなかでも最も重度の状態にあたります。
今回は、膝蓋骨脱臼グレード4の状態、症状、診断方法、治療、そして当院での手術例まで解説いたします。
■目次
1.膝蓋骨脱臼とは|グレード4はどんな状態
2.グレード4で見られる症状・歩き方
3.診断|グレード4と判断するポイント
4.治療と手術|グレード4で検討される術式
5.術後のケア・リハビリについて
6.膝蓋骨脱臼グレード4の症例
7.まとめ
膝蓋骨脱臼とは|グレード4はどんな状態
小型犬でよくみられる整形外科疾患のひとつである「膝蓋骨脱臼(パテラ)」は、後ろ足の膝の皿(膝蓋骨)が、本来あるべき溝から内側または外側に外れてしまう状態を指します。
膝蓋骨脱臼の重症度を表すグレードは以下の表のとおりです。
| グレード1 | 普段は正常な位置にあるが、力がかかると脱臼する。手を離すと自然に元の位置に戻り、日常生活で症状が出ることはほとんどない。 |
| グレード2 | 膝を曲げ伸ばししたときなどに時々脱臼する。自分で足を伸ばしたり、手で押し戻したりすると元に戻るが、徐々に骨の変形が進む恐れがある。 |
| グレード3 | 膝蓋骨が「常に脱臼した状態」。手で押して一時的に正常な位置に戻すことはできるが、またすぐに外れてしまう。 |
| グレード4 | 常に脱臼した状態で、手で押しても元の位置に戻らない。骨の変形も深刻で、足を曲げたまま歩くようになる。 |
「グレード3」と「グレード4」はどちらも膝蓋骨が常に外れている点が共通しています。
大きな違いは「膝蓋骨を正常な位置へ戻せるかどうか」です。グレード3では手で押すと一時的に戻せますが、再び外れやすい状態です。一方、グレード4では常に脱臼しており、手で押しても整復できません。
さらに、長期間にわたって脱臼が続いている場合は、大腿骨や脛骨の変形、骨のねじれ、筋肉や関節周囲の組織の拘縮などが生じる恐れがあります。
そのため「グレード4」では、膝蓋骨だけを元の位置に戻すのではなく、膝だけでなく後ろ足(後肢)全体の状態を確認して治療方針を考える必要があります。
グレード4で見られる症状・歩き方
比較的軽度の膝蓋骨脱臼では「歩いている途中に後ろ足を一時的に上げる」「スキップするように歩く」といった特徴が代表的です。
しかし「グレード4」の状態では、膝蓋骨が常に外れているため、後ろ足を十分に伸ばしにくくなり、歩行異常が持続して見られることがあります。
例えば、グレード4では以下のような様子が見られます。
✓ 後ろ足を曲げたまま歩く
✓ 腰を落としたような姿勢で歩く
✓ 立ち上がりに時間がかかる
✓ 歩ける距離が短くなる、数歩しか歩けない
✓ ほとんど後ろ足を使えない など
状態によっては、後ろ足を十分に使えず、歩行が難しくなることもあります。歩けないほどの変化がある場合は、脱臼の程度だけでなく、骨や関節、筋肉の状態も含めて確認することが重要です。
また、成長期から膝蓋骨が脱臼している場合には、成長に伴う大腿骨や脛骨などの骨格の変形、後ろ足の筋肉の発達への影響が考えられます。
そのため、振り返ってみると「幼い頃から後ろ足の形や歩き方に特徴が見られていた」というケースもあります。
「幼い頃から歩き方が独特だった」「以前から後ろ足が曲がっている」といった場合でも、生まれつきの特徴と決めつけず、動物病院で一度、膝や後ろ足の状態を確認できるとよいでしょう。
診断|グレード4と判断するポイント
診断では、歩行の様子を確認したうえで、触診やレントゲン検査などを行います。
触診では、膝蓋骨がどこに位置しているか、手で正常な位置へ戻せるか、膝をどの程度曲げ伸ばしできるかなどを確認します。グレード4では、膝蓋骨が脱臼した位置にあり、手で押しても整復できないことが判断のポイントです。
レントゲン検査では以下のポイントを確認して、治療計画を立てていきます。
・膝蓋骨の位置
・大腿骨や脛骨の形
・骨のねじれ
・関節の変化 など
特に重度の膝蓋骨脱臼では、膝だけでなく後ろ足全体の骨の並びを評価することが、手術方法を検討するうえで重要になります。
必要に応じて追加の検査を行い、骨格や関節の状態を詳細に把握します。
治療と手術|グレード4で検討される術式
グレード4では、膝蓋骨を手で正常な位置へ戻せないほど構造的な変化が生じているため、症状や骨の変形などを踏まえて外科手術を検討することがあります。
手術方法は1つではありません。これらの術式を状態に応じて組み合わせます。
・造溝術:膝蓋骨が収まる大腿骨の溝を整える
・脛骨粗面転移術:膝蓋骨につながる靭帯の付着部を移動させる
・関節包処置:関節包や周囲の軟部組織を調整する
・骨切り術:後ろ足の軸を調整する(大腿骨や脛骨の変形が強いケースで実施)
同じグレード4でも、年齢や体格、骨の変形の程度、筋肉の拘縮、反対側の後ろ足の状態などは異なります。
そのため、検査結果をもとに必要な術式を検討し、膝関節だけでなく後ろ足全体のバランスを考えて治療計画を立てます。
術後のケア・リハビリについて
グレード4では、手術後も、膝蓋骨が外れた状態で身についた歩き方や筋力の偏りが残る可能性も否定できません。
術後はジャンプやダッシュなどの運動を控えるなど安静管理と安全な環境づくりを行いながら、回復に向けて過ごします。
再診では膝蓋骨の位置や骨の状態、再脱臼や固定器具に関連する問題がないかを確認します。状態に応じて、関節の動きを保つリハビリや筋力回復のための運動を取り入れることもあります。
回復の経過には個体差があるため、歩き方の変化を見ながら段階的に運動量を戻していきましょう。
当院では、術後の状態に合わせたリハビリや、ご家庭での過ごし方についてもご案内しています。退院後の生活や運動について気になることがあれば、遠慮なくお尋ねください。
膝蓋骨脱臼グレード4の症例
実際に当院で治療を行った、膝蓋骨脱臼グレード4の犬の手術例をご紹介します。
グレード4では、膝蓋骨の脱臼だけでなく、骨格や関節周囲の組織など複数の要因が関係している場合があります。
そのため、こちらのケースでは膝の状態を確認したうえで、複数の術式を組み合わせました。
・造溝術
・脛骨粗面転移術
・内側関節包解放
・外側関節包オーバーラップ
「外側関節包オーバーラップ」とは膝関節の外側にある関節包を重ね合わせるように縫合し、膝蓋骨が本来の位置に保たれやすいよう調整する方法です。

レントゲン写真からもわかるように、膝蓋骨が再び脱臼する方向へ移動しにくくするため、「脱臼防止スクリュー」を使用しています。
なお、ここでご紹介したのは一症例であり、すべてのグレード4で同じ手術を行うわけではありません。骨の変形や関節の状態、年齢などに合わせて治療を検討します。
まとめ
膝蓋骨脱臼がグレード4の状態では、膝蓋骨を手で正常な位置に戻すことができず、骨格の変形などを伴っている場合もあります。重度になる前に歩き方や後ろ足の変化に気づき、早めに受診につなげることが大切です。
また、すでにグレード4と診断されている場合でも、その子に合わせた治療方法を検討していくことが重要です。
みかん動物病院では、グレード4の膝蓋骨脱臼についてもご相談いただけます。
手術だけでなく術後のリハビリも含めた治療とサポートを行っていますので、お気軽にご相談ください。
■関連する記事はこちら
・前十字靭帯断裂の原因と症状、治療について
■当院の整形外科診療はこちら
・整形外科
■当院の予約はこちら
電話番号:0463-84-4565
web予約:https://mkn-a-hospital.reserve.ne.jp/
神奈川県秦野市の動物病院なら『みかん動物病院』
みかん動物病院の診療案内はこちらから
