症例紹介
急性腎障害|見逃しやすい初期症状と動物病院での治療・検査について
神奈川県秦野市・伊勢原市・平塚市・中井町・二宮町・小田原市にお住まいの皆さま、こんにちは。
神奈川県秦野市の「みかん動物病院」、獣医師の森田です。
腎臓は体内の老廃物を排出し、水分や電解質のバランスを調整する大切な役割を担っています。ところが、何らかの原因で腎臓の機能が急激に低下すると、「急性腎障害」を引き起こし、命に関わる危険な状態になることがあります。
この病気は、早期に適切な治療を受ければ回復する可能性がありますが、発見が遅れると慢性腎臓病へと進行し、生涯にわたる管理が必要になることもあります。だからこそ、早期発見と迅速な対応がとても重要です。
今回は、急性腎障害の症状や原因、治療法、さらに日常生活で気をつけるべき予防策について解説します。
■目次
1.腎臓の働きについて
2.急性腎障害のタイプと主な原因
3.症状
4.診断方法
5.治療法
6.家庭でのケア
7.まとめ
腎臓の働きについて
腎臓は、以下のような大切な役割を担っています。
◆老廃物の排出
体内で不要になった物質(尿素窒素やクレアチニンなど)を尿として排出します。
◆水分・電解質のバランス調整
水分量を調節し、ナトリウムやカリウムといった電解質のバランスを適切に維持します。
◆ホルモン分泌
血圧を調整したり、赤血球の生成を助けたりするホルモンを分泌します。
急性腎障害のタイプと主な原因
急性腎障害は、その原因によって大きく3つのタイプに分けられます。
<腎前性(血流低下によるもの)>
腎臓に十分な血液が届かなくなることで機能が低下するタイプです。
ただし、水分補給や適切な治療を早期に行えば、比較的回復しやすいとされています。
◆主な原因
・脱水・熱中症(特に夏場の高温環境下で水分補給が不足するとリスクが高まる)
・急性膵炎や重度の下痢(体液が失われることで腎臓への血流が低下する)
・大量の出血や低血圧(外傷やショック状態によって腎臓に十分な血液が届かなくなる)
<腎性(腎臓自体の障害によるもの)>
腎臓の組織そのものがダメージを受けることで起こるタイプです。
腎組織が直接傷つくため、回復には時間がかかる場合が多く、治療が遅れると慢性腎臓病へと進行し、生涯にわたる管理が必要になることもあります。
◆主な原因
・有害物質の摂取(ユリ〈特に猫は極めて危険〉、ブドウ、チョコレート、NSAIDs〈非ステロイド性抗炎症薬〉、エチレングリコール〈不凍液〉など)
・細菌感染(レプトスピラ症など、腎臓にダメージを与える感染症)
・重度の炎症や腎臓の損傷(外傷や自己免疫疾患によるもの)
<腎後性(尿路閉塞によるもの)>
尿管や膀胱、尿道に結石や腫瘍が詰まることで尿の流れが妨げられ、腎臓に負担がかかるタイプです。
尿路の閉塞を解除することで回復する可能性は高いものの、長期間放置すると腎臓に不可逆的なダメージが残り、腎機能が大きく低下してしまうことがあります。
◆主な原因
・膀胱結石や尿道閉塞(尿がスムーズに排出されず、腎臓に負担がかかる)
・腫瘍や尿路の炎症(尿管や膀胱の異常により、尿の流れが阻害される)
症状
急性腎障害は突然発症し、短時間で深刻な状態に陥る可能性がある病気です。
しかし、初期症状は飼い主様が見逃しやすいものが多く、「気づいたときにはすでに腎機能が大きく損なわれていた」というケースも少なくありません。そのため、早い段階で異変に気づき、迅速に動物病院を受診することが何よりも大切です。
<初期症状(早期発見のポイント)>
・水を大量に飲む、多尿(腎臓がうまく機能せず、水分を再吸収できなくなる)
・元気がない、食欲不振(腎機能の低下により体調が悪化)
・軽い嘔吐や下痢(体内に毒素が蓄積し、消化器症状が現れる)
初期段階では、このような比較的軽い症状が見られることが多く、つい「ちょっと疲れているのかな?」と思ってしまうかもしれません。
<進行すると現れる症状(緊急事態のサイン)>
・尿が極端に少なくなる、または出なくなる(尿毒症の危険)
・激しい嘔吐、下痢(体内の毒素が急激に増加)
・口臭(アンモニア臭)、歯ぐきの色が悪い(腎機能の低下による代謝異常)
・ふらつき、痙攣、意識障害(体内の老廃物が神経系に影響)
ここまで症状が進行すると、腎臓へのダメージは深刻になり、命に関わる状態に陥ることもあります。少しでも異変を感じたら「様子を見る」のではなく、すぐに動物病院へ連絡し、できるだけ早く受診してください。
診断方法
急性腎障害を適切に治療するためには、正確な診断が欠かせません。腎障害の重症度を評価し、原因を特定するために、以下のような検査が行われます。
◆血液検査
・BUN(尿素窒素)、クレアチニンの測定:腎臓のろ過機能が正常に働いているかを確認する指標
・電解質(ナトリウム、カリウム、リンなど)のバランス確認:腎機能が低下すると、電解質のバランスが崩れることがある
・SDMA(対称性ジメチルアルギニン)の測定:BUNやクレアチニンよりも早期の腎機能低下を検出できるマーカー
◆尿検査
・尿比重:腎臓が尿を適切に濃縮できているかを確認
・尿タンパク・尿糖:腎臓のろ過機能が正常に働いているかを判断
・沈渣(ちんさ)検査:尿中の細胞や結晶を調べ、感染症や尿結石の有無を確認
◆画像診断(エコー・レントゲン)
・腎臓のサイズ・形状の確認:腎臓の萎縮や腫れがないかを調べる
・尿路結石や腫瘍の有無を確認:尿の流れを妨げる原因がないかをチェック
◆追加検査(必要に応じて)
・細菌培養検査:尿中の細菌を培養し、感染症の有無や適切な抗生剤を特定
・腎生検(腎臓の組織検査):腎障害の原因が特定できない場合や、腎疾患の詳細な診断が必要な場合に実施
これらの検査結果をもとに、腎臓の損傷が回復可能なものかどうか、またどの程度の治療が必要かを判断します。
治療法
治療は原因に応じて異なりますが、基本的には、以下の方法を組み合わせながら腎機能の回復を目指します。
<輸液療法(点滴)>
輸液療法は、急性腎障害の最も重要な治療法のひとつです。点滴を行うことで、脱水を改善し、腎臓への血流を回復させ、ダメージを受けた腎機能をサポートします。
また、尿素窒素やクレアチニンなどの老廃物を排出し、尿毒症の進行を防ぐ役割もあります。
<薬物療法>
症状や原因に応じて、以下の薬を使用します。
・抗生物質(細菌感染が原因の場合):レプトスピラ症などの感染症による腎障害には、適切な抗生剤を投与します。
・制吐剤(嘔吐がある場合):体内の毒素が消化器に影響を与えるため、嘔吐を抑える薬を使用し、脱水を防ぎます。
また、必要に応じて血圧管理薬や利尿剤を併用することもあります。
<食事療法>
腎臓への負担を軽減するため、特別な食事管理が推奨されます。
リンやタンパク質を制限した腎臓ケア用フードを与えることで、腎臓への負担を軽減し、機能維持をサポートします。
また、ナトリウム(塩分)の摂取を控えることで、血圧を安定させ、腎臓へのダメージを抑える効果が期待できます。
<その他の処置>
重症例では、より専門的な治療が必要になることもあります。
・透析(血液透析・腹膜透析):腎機能が著しく低下し、体内の毒素を排出できない場合に実施されます。
・外科的治療:尿路閉塞が原因の場合、結石の除去手術などを行い、尿の流れを回復させることで腎臓への負担を軽減します。
適切な治療を受けることで、多くのケースで腎機能が回復する可能性があります。しかし、腎臓は一度損傷すると完全には元に戻らないこともあるため、治療後も注意深いケアが必要です。
家庭でのケア
治療後は、腎臓に優しい生活管理を続けることが大切です。また、再発を防ぐためにも、日常の健康管理を徹底し、腎臓への負担を減らす工夫をしましょう。
◆食事管理
腎臓への負担を減らすために、リンやタンパク質を制限した腎臓サポート食を与え、塩分を控えることが大切です。また、消化しやすい食事を選ぶことで体への負担を軽減し、栄養をしっかり吸収できるようにしましょう。
◆水分摂取の管理
老廃物の排出を促すため、飲水量を増やす工夫を取り入れましょう。ウェットフードを活用したり、ウォーターファウンテン(自動給水器)を設置したりすることで、自然と水分摂取量を増やせます。
◆服薬管理
獣医師の指示に従い、処方された薬を正しく与えることが重要です。
治療の経過を確認するために定期的な血液検査を受け、腎機能の状態をチェックすることも大切です。薬の飲ませ方に不安がある場合は、獣医師に相談すると安心です。
◆定期的な再検査
血液検査や尿検査を通じて腎機能の変化を確認し、日頃から愛犬・愛猫の体調の変化に気を配ることが大切です。
慢性腎臓病へ移行しないよう、定期的な健康診断を受けることで、早期発見・早期対応がしやすくなります。
まとめ
急性腎障害は、適切な治療を受ければ回復できる可能性がある病気ですが、発見が遅れると慢性腎臓病へ移行し、一生涯の管理が必要になることもあります。そのため、早期発見と早期治療が何よりも大切です。
当院では、腎臓病の診断・治療を行っておりますので、気になる症状があればお気軽にご相談ください。
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