症例紹介

脳・神経科

水頭症

こんにちは。神奈川県秦野市の「みかん動物病院」獣医師の森田です。

愛犬や愛猫と暮らすなかで、「最近なんとなくぼんやりしている時間が増えた」「歩くときに足元がふらついている」「急にけいれんを起こした」といった変化に気づいたことはありませんか?

これらは神経症状と呼ばれ、「水頭症(すいとうしょう)」という脳の病気が隠れているかもしれません。

今回は、犬と猫の水頭症について、その原因や注意すべき症状、病院で行う検査から治療法までを網羅的に分かりやすく解説します。

 

■目次
1.水頭症とはどのような病気か
2.水頭症の原因
3.水頭症の症状|こんなサインに注意
4.診断方法
5.治療方法
6.予防と飼い主様が日常で気をつけられること
7.まとめ

 

水頭症とはどのような病気か

犬・猫の水頭症は、脳脊髄液の流れや吸収の異常により、脳室に液体が過剰にたまる病気です。脳脊髄液が脳を内側から圧迫することで、神経の働きに異常が生じます。

脳脊髄液:脳や脊髄のまわりを満たす無色透明な液体で、脳を保護する役割がある
脳室:脳の内部にある脳脊髄液が通る空間

その結果、飼い主様からは気づきづらい些細な行動の異常から、視覚の障害、ときには命に関わる激しいけいれん発作など、多様な神経症状が引き起こされます。

また、小型犬・短頭種では、頭蓋骨の形や脳の構造の影響で、先天的に脳脊髄液の流れが妨げられやすい傾向があります。

 

水頭症の原因

水頭症の原因は「先天性」と「後天性」に分類されます。

先天性水頭症:生まれつき脳脊髄液の通り道や吸収機能に異常があり、幼齢期から症状が出やすいタイプです。
後天性水頭症:外傷、炎症、脳腫瘍などが原因で脳脊髄液の流れや吸収が妨げられて起こるタイプです。

どちらのタイプも犬で多く見られますが、猫であっても発症の可能性があります

 

<水頭症になりやすい犬種と幼齢期のサイン>

遺伝的な影響を受けやすい以下のような小型犬・短頭種に該当する場合は、特に注意が必要です。

・チワワ
・ポメラニアン
・マルチーズ
・ヨークシャー・テリア
・トイ・プードル
・パグ
・ペキニーズ

また、先天性の場合、子犬の時期(幼齢期)から見た目の特徴や行動のサインもいくつか存在します。

 

頭の形
頭部が不自然に丸く、ドーム状(アップルヘッドが極端になったような形)に膨らんで見えることがあります。
さらに、頭のてっぺんにある骨の隙間である「泉門(せんもん)」が、成長しても閉じることなく大きく開いたままになっているケースも特徴的です。

 

行動の特徴
行動面においては、非常に気づきづらいですが、以下のような違和感がみられることがあります。

✔ 成長が明らかにゆっくりである
✔ 名前を呼んでも反応が鈍い
✔ しつけの入りが悪い
✔ 1日の大半を眠って過ごしている
✔ 情緒が不安定(「急な興奮⇔ぼんやりする」の切り替わりが激しい)

こうした行動や異変は性格やしつけのせいではありません。飼い主様一人で抱え込まず、愛犬・愛猫の行動や、しつけ・発育のことで悩んでいたら、ぜひ一度動物病院へご相談ください。

 

水頭症の症状|こんなサインに注意

症状は脳の圧迫度合いや発症年齢、影響を受ける部位によって大きく異なり、日常のなかで見落とされることがあります。

飼い主様が日常生活のなかで気づきやすい、具体的な変化のチェックリストを以下にまとめました。

✔ ぼんやりと過ごす時間が増え、活動性が落ちている
✔ 呼びかけや、おもちゃに対する反応が明らかに鈍い
✔ 目的もなく、お部屋の中の同じ場所をぐるぐると回り続ける(旋回行動)
✔ 何かに怯えるように落ち着きがなく、部屋の中をソワソワと歩き回る
✔ 壁や家具をうまくよけられず、頭や体をぶつけてしまう
✔ 歩くときに足元がよろついたり、ふらついたりする
✔ 目線が合いにくく、黒目が下を向いているなど目の動きが不自然である
✔ 物にぶつかる様子などから、視力が落ちているように感じられる
✔ 突然、体全体を硬直させたり手足をバタつかせたりする“けいれん発作”を起こす
✔ 発作のあとに、急に意識が遠のいてぼんやりとする

さらに、以下のようなサインが見られた場合は、できるだけ早いタイミングで動物病院を受診してください。

生まれて初めてけいれん発作を起こした
短い期間に何度も発作を繰り返している
足元のふらつきや、同じところを回り続ける行動が止まらない
ここ数日、あるいは数週間で急に性格や行動がガラリと変わった
明らかに目が見えていないような仕草をしている
子犬・子猫の時期から、頭の形や反応の仕方にずっと違和感を抱いている
好発犬種に該当し、気になる症状が一つでも見られる

 

<けいれん発作や「てんかん」の関係>

けいれん発作は、脳の神経活動に異常が起きたときに見られる神経症状のひとつです。
そのため発作が起きると「てんかん」を疑うことが多いですが、「水頭症」によって引き起こされる可能性もあるのです。

水頭症 てんかん
脳への圧迫や障害によって神経の働きが乱れ、発作が起こる 脳の神経細胞が過剰に興奮して発作が起こる

発作がある場合は、水頭症、脳炎、脳腫瘍などの「脳の構造そのものの異常」も含めて確認することが大切です。

もし発作を目撃された際は、落ち着いて「回数」「持続時間」「発作後の様子」を記録してください。動画の撮影は、より正確な診断のための大きな手がかりになります。

てんかんについてはこちらで解説しています

 

診断方法

動物病院では、飼い主様から伺うお話と、一頭一頭の身体の状態を照らし合わせながら、段階的に検査を進めていきます。
けいれん、ふらつき、視力の低下、旋回行動などの神経症状が見られる場合、その原因が水頭症なのか、別の病気なのかを慎重に見極める必要があります。

 

問診
症状がいつからあるか、発作の有無や頻度、歩き方・視力の変化、頭部外傷の有無、幼齢期からの成長や行動の違和感を確認します。発作や異常行動の動画があると、症状の様子や持続時間、発作後の状態を把握する助けになります。

 

身体検査・神経学的検査
意識状態、歩き方、目の動き、光への反応、姿勢反応などを確認し、脳のどの部分に異常が疑われるかを評価します。
先天性水頭症が疑われる場合には、問診・視診・触診を通して、頭の形や泉門の開き具合を確認します。

 

画像検査
レントゲンや超音波検査で頭蓋骨・泉門・脳室の状態を確認し、必要に応じてCTやMRIで脳室の拡大や脳への圧迫の程度を詳しく調べます。

 

必要に応じた追加検査
血液検査で内臓疾患や代謝異常の有無を確認し、脳炎や感染症が疑われる場合には脳脊髄液検査を検討します。

 

このように複数の検査を組み合わせ、てんかんなのか、あるいは水頭症などによる脳の異常がないかを総合的に判断します。

当院では、今回ご紹介した水頭症をはじめ、似たようなふらつきの症状が出やすい前庭疾患など、高度な判断を要する脳・神経科領域の疾患にも力を入れて取り組んでいます。
一頭一頭の負担に配慮しつつ、飼い主様に分かりやすく説明した上で進めてまいりますので、どうぞ安心してご相談ください。

当院の脳・神経科についてはこちら
前庭疾患についてはこちらで解説しています

 

治療方法

治療に当たっては、今出ている症状の程度、年齢、発作の頻度、MRI画像による脳の圧迫度合い、日々の生活への支障を総合的に考慮します。

そして、「脳脊髄液による脳への圧迫の緩和」「神経症状のコントロール」「QOL(生活の質)の維持」「病気の進行の抑制」の4つの視点から治療を進めます。

 

<内科的治療>

症状が比較的軽度である場合や、まずは投薬による発作のコントロールを目指す場合に選択されます。
以下のような薬を組み合わせ、体調や症状の変化を注意深く見守りながら、種類や量を細かく調整していきます。

利尿薬:脳脊髄液が作られる量を減らす、脳圧を下げる
ステロイド剤:脳の炎症や腫瘍による腫れを抑える
抗てんかん薬:けいれん発作が見られる場合に併用する

 

<外科的治療>

内科治療だけでは症状の進行を抑えられない場合や、脳への圧迫が非常に強い場合には、外科手術により根本的な治療を検討します。

代表的な手術が「脳室腹腔シャント術(VPシャント)」です。脳室に細いカテーテルを設置し、過剰にたまった脳脊髄液を皮膚の下を通して、安全に吸収できるお腹の中へと逃がす道を作ります。

当院では、MRI検査や手術が必要な際は、高度医療施設(二次診療施設)と連携して適切な検査・治療につなげます。術後は当院にて無理なく治療を続けられるよう丁寧にサポートいたします。

 

予防と飼い主様が日常で気をつけられること

残念ながら生まれつきの要因が大きい先天性の水頭症に関しては、発症を完全に防ぐための予防法というものは存在しません。そのため、日常における最大の「予防」であり対策となるのは、好発犬種の特徴や幼齢期の小さなサインにいち早く気づき、異変を感じたらすぐに動物病院へ相談すること、そして日々の体調を細かく記録しておくことです。

一方で、頭部のケガや衝撃が原因となる後天性の水頭症については、日常の一工夫によって防ぐ可能性を高められます

頭部を不慮の事故から守る工夫として以下のような習慣づけや環境づくりができます。

・ソファやベッドなど、高い場所からの飛び降りをさせない
・抱っこをしている最中に、腕の中から誤って落下させないよう脇を締める
・フローリングなどの滑りやすい床にはマットを敷き、足元のスリップや転倒を防ぐ
・階段や段差のある場所にはペットゲートを設置し、不意の転落を防ぐ

特に頭蓋骨がまだ柔らかい子犬や子猫、頭の骨に隙間(泉門)がある子の場合は、ぜひ参考にしてみてください。

また、水頭症の経過は、発見時期や脳の圧迫度合い、発作の管理状態によって大きく異なるため、寿命を一概に決めることはできません。早期に発見し、脳へのダメージが進む前に治療を始められれば、長く元気に過ごせることもあります。

当院では、検査結果や一頭一頭の状態を丁寧に説明し、飼い主様と共に「これから何ができるのか?」「どう過ごすべきか?」を考えます。些細なことでもご相談ください。

 

まとめ

水頭症は、脳脊髄液が過剰にたまって脳を圧迫し、ふらつきや旋回行動、けいれん発作などの神経症状を引き起こす病気です。

当院では万が一の発作が起きたときの緊急対応から、ご家庭で少しでも安心・快適に過ごすための具体的なアドバイスまで、飼い主様の不安に寄り添いながら真摯に対応いたします。

ふらつきや発作、反応の鈍さなど、少しでも気になる症状や「いつもと違う」という違和感がありましたら、どうぞお気軽に当院へご相談ください。

■当院の予約はこちら
電話番号:0463-84-4565
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