症例紹介
鼠径ヘルニア|痛みやリスクは?手術が必要なケースを解説
神奈川県秦野市・伊勢原市・平塚市・中井町・二宮町・小田原市にお住まいの皆さま、こんにちは。
神奈川県秦野市にあるみかん動物病院、獣医師の森田です。
鼠径ヘルニアとは、お腹の中の臓器や脂肪が、後ろ脚の付け根にある鼠径部から皮膚の下へ飛び出してしまう病気です。特に猫よりも犬で多く見られ、決して珍しい疾患ではありません。
症状が現れないこともありますが、放置すると腸や膀胱が穴に入り込み、締め付けられてしまうことがあります。この状態になると血流が阻害され、緊急手術が必要になるケースもあるため注意が必要です。
今回は、犬や猫の鼠径ヘルニアについて、早期発見・早期治療のために知っておきたいポイントを詳しく解説します。
■目次
1.鼠径ヘルニアとは?
2.鼠径ヘルニアの種類・原因・症状
3.診断方法と検査
4.治療法
5.手術後のケアと注意点
6.鼠径ヘルニアの予防と日常生活での注意点
7.まとめ
鼠径ヘルニアとは?
鼠径ヘルニアとは、後ろ脚の付け根にある鼠径部の隙間から、お腹の中の臓器や脂肪組織が飛び出してしまう状態を指します。
この隙間は、本来血管や神経が通るために存在するものですが、先天的に広い場合や、妊娠・肥満による腹圧の上昇、事故によるケガなどが原因で、腸や脂肪組織が押し出されてしまうことがあります。
犬や猫では先天性のケースが多く子犬や子猫のうちから発症していることが少なくありません。
鼠径ヘルニアの種類・原因・症状
鼠径ヘルニアは、大きく分けて先天性(生まれつきのもの)と、後天性(成長後に発症するもの)の2種類があります。それぞれの特徴について解説します。
<先天性鼠径ヘルニア>
遺伝的な要因(親から受け継がれる体質)や、胎児の発育過程での異常が関係しています。また、トイ・プードル、チワワ、ダックスフント、ヨークシャテリアなどの小型犬に多いことが分かっています。
◆症状
子犬のうちから鼠径部に柔らかい膨らみが見られますが、痛みを感じたり気にしたりする様子はなく、元気なことがほとんどです。
重症例では内臓が飛び出して戻らなくなる「嵌頓(かんとん)」を起こしていることもあり、この場合は緊急手術が必要になります。
<後天性鼠径ヘルニア>
事故による外傷、加齢による筋肉の衰え、妊娠や肥満による腹圧の上昇などが主な原因です。特に出産経験のある中高齢の犬に発症しやすい傾向があります。
◆症状
突然、鼠径部に膨らみが現れることが多く、腫瘍と勘違いして来院される飼い主様もいらっしゃいます。先天性の場合と同様に、症状の程度はさまざまで、無症状のケースもあれば、嵌頓を起こして緊急手術が必要になることもあります。
診断方法と検査
鼠径ヘルニアの診断は、視診(見た目の確認)と触診(手で触れて調べること)を中心に行い、必要に応じてレントゲン検査やエコー検査を実施します。
◆視診と触診
まず視診では、膨らみの位置・大きさ・左右差を確認し、皮膚の色や炎症の有無をチェックします。
次に触診を行い、膨らみの硬さ、押すと内容物が戻るかどうか、痛みがあるかなどを確認します。
◆レントゲン検査とエコー検査
ヘルニアの中に脂肪だけでなく、腸や膀胱などの臓器が入り込んでいる可能性がある場合は、レントゲンやエコーを使った画像検査を行います。
レントゲン検査ではヘルニア内に腸や膀胱が入り込んでいるか、また腸閉塞を起こしていないかを確認します。ただし、小さな変化は判断しにくい場合があります。
エコー検査はレントゲンよりも詳しくヘルニアの内部を調べることができ、臓器の状態や血流の流れを確認できます。特に嵌頓の程度や、手術が必要かどうかを判断するうえで重要な検査となります。
治療法
鼠径ヘルニアは飲み薬などで治療することはできず、根本的な治療には外科手術が必要です。特に膨らみが大きい場合や、嵌頓を起こしている場合は、緊急手術が必要になります。
<手術の流れ>
1.全身麻酔・消毒・切開
まず、全身麻酔をかけた後、手術部位を丁寧に消毒し、皮膚を切開します。
2.ヘルニア内容物の確認・還納
切開後、飛び出した腸や脂肪組織などの内容物を確認します。
・戻せる場合 → 優しくお腹の中へ戻します。 これを「還納(かんのう)」といいます。
・戻せない場合(嵌頓が発生) → 嵌頓によって血流が止まり、組織が壊死するリスクがある場合は、ダメージを受けた部分を切除し、健康な腸管同士を縫い合わせる「再吻合(さいふんごう)」を行います。
3.ヘルニア輪(穴)の閉鎖
ヘルニアが発生している隙間を縫い合わせ、穴を閉じます。
この際、時間が経つと自然に溶ける吸収糸を使用するため、抜糸の必要はありません。
4.皮膚の縫合・手術終了
最後に、切開した皮膚を丁寧に縫合し、手術は終了です。
手術後のケアと注意点
手術後は体力が落ちており、傷口もあるため、安静に過ごすことが大切です。ただし、犬や猫は痛みが和らいでくると動きたがるため、ケージや小さめのスペースで過ごさせ、過度な運動を避けましょう。 散歩も必要最低限にとどめ、興奮させないように注意してください。
<食事管理>
手術当日〜翌日は麻酔の影響で食欲が落ちたり、飲み込む力が弱くなったりすることがあります。そのため、以下のように工夫しましょう。
・消化の良いフード(ふやかしたドライフードや缶詰など)を少量ずつ与える
・水分も一度にたくさん与えず、少しずつ様子を見ながら与える
・数日かけて通常の食事に戻していく
<傷口の管理>
傷口がしっかり回復するまでには、通常10日~14日ほどかかります。その間、傷口を清潔に保ち、炎症や感染を防ぐことが大切です。
傷口に赤みや腫れ、出血、膿が見られた場合は、悪化する前に早めに獣医師に相談してください。また、発熱や食欲不振など体調に変化があれば、様子を見ずにすぐに受診することが重要です。
鼠径ヘルニアの予防と日常生活での注意点
鼠径ヘルニアを完全に予防することは難しいですが、日常のケアによってリスクを軽減し、早期発見・早期治療につなげることが重要です。
まず、適度な運動を取り入れ、肥満を防ぐことが大切です。肥満によって腹圧が上がると、鼠径部の負担が大きくなり、ヘルニアが発生しやすくなる可能性があります。また、定期的な健康チェックを行い、少しの変化も見逃さないようにしましょう。
特にトイ・プードル、チワワ、ダックスフント、ヨークシャテリアなどの好発犬種に該当する場合は、普段から後ろ脚の付け根(鼠径部)に優しく触り、膨らみがないか確認する習慣をつけるとよいでしょう。
まとめ
鼠径ヘルニアは、初期のうちは症状が軽いものの、放置すると命に関わる可能性がある病気です。特に、トイ・プードルやチワワなどの好発犬種、出産経験のあるメス犬、高齢の犬や猫は発症しやすいため、注意が必要です。
定期的な健康チェックを行い、少しでも異変を感じたら、早めに動物病院を受診しましょう。 鼠径ヘルニアは手術によって完治が見込める病気なので、適切な治療と術後のケアを行うことが大切です。
日頃から愛犬・愛猫の様子をよく観察し、早期発見・早期治療を心がけましょう。
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