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整形外科

犬の踵骨骨折|かかとを痛がる・足をつけない…見逃せない症状と治療法

犬の踵骨(しょうこつ)は、後ろ足の足首にあたる部分にある骨で、人間でいうと「かかと」にあたります。この骨にはアキレス腱がついていて、歩いたりジャンプしたりするときに、とても大切な役割を担っています。

そのため、踵骨が骨折してしまうと、後ろ足に体重をかけることができなくなり、歩くのが困難になったり、強い痛みを感じたりすることがあります。

特に、高い場所から落ちてしまったときや、交通事故などの衝撃によって起こることが多いため、少しでも様子がおかしいと感じた場合には、早めに動物病院で診てもらうことが大切です。

今回は、犬が踵骨を骨折してしまったときに見られる症状や治療法、そして手術後のケアについて解説します。

 

■目次
1.踵骨(しょうこつ)とは?
2.踵骨骨折の原因
3.症状
4.診断方法
5.治療法
6.手術後の経過とケア
7.踵骨骨折の予防方法と注意点
8.まとめ

 

踵骨(しょうこつ)とは?

踵骨は、犬の後ろ足にある「足根骨(そっこんこつ)」という小さな骨の集まりの中で、特に後方に突き出たかかとのような部分に位置しています。人間でいえば「かかと」にあたる骨ですが、構造上は「足首の一部」に含まれます。

この踵骨には「アキレス腱」と呼ばれる太くて丈夫な腱がついています。腱とは、筋肉と骨をゴムのようにしっかりとつなぎ合わせている組織のことです。

アキレス腱は、ふくらはぎの筋肉と踵骨をつないでおり、犬が走ったりジャンプしたりする際に、この腱が収縮して踵骨を引っ張ることで、後ろ足をグッと伸ばす動きができます。

そのため、踵骨はアキレス腱と連動して、後ろ足の動きをスムーズにするうえでとても重要な役割を担っているのです。

犬の踵骨(しょうこつ)の位置を示した図。左側に立っている犬の後肢に赤い丸で踵骨の位置を表示し、右側には骨格図で踵骨が足首の一部であることを解説している。人間でいう『かかと』に相当する。

踵骨骨折の原因

犬の踵骨骨折は、高い場所からの落下によって起こることが多く、特に抱っこ中に落としてしまった場合や、ソファやベッドなどから飛び降りた際に発生するケースがよく見られます。

また、ドッグランで思いきり走ったり、アジリティでジャンプしたりといった激しい運動をしたときにも、足に強い負担がかかることで骨折につながることがあります。さらに、交通事故などの強い衝撃によって起こる場合もあります。

特に、チワワやポメラニアンといった骨の細い小型犬は、比較的骨折しやすい傾向があります。ラブラドール・レトリーバーやジャーマン・シェパードなど、アジリティや訓練をよく行う中型〜大型犬も、踵骨に強い力がかかるため注意が必要です。

さらに、骨がまだしっかりしていない子犬や、加齢によって骨密度が低下しているシニア犬も、骨折のリスクが高くなるため、日常生活の中でも十分に気をつけてあげることが大切です。

 

症状

犬が踵骨を骨折したときには、以下のような症状が見られます。

後ろ足をつけない
後ろ足(後肢)に体重をかけることができず、足を地面につけずに浮かせたままにしていたり、不自然にかばうような歩き方をしたりする様子が見られます。

 

腫れ(腫脹:しゅちょう)
かかとの周囲が腫れて、触ると熱をもっていたり、痛がったりすることがあります。

 

痛み
後ろ足に触られるのを嫌がり、鳴いたり、時には噛もうとしたりすることもあります。また、強い痛みによってじっと動かなくなったり、食欲が落ちて元気がなくなったりすることもあります。

 

足の向きや形が不自然(異常な肢位)
足を不自然な方向に曲げていたり、反対の足と比べてかかとの位置が高く見えたりと、普段とは違う足のかたちをしていることがあります。

このような症状が見られた場合はご家庭で様子を見るだけではなく、できるだけ早く動物病院を受診することが大切です。

 

診断方法

動物病院では、まず獣医師が触診(触って状態を確認すること)を行い、その後レントゲン検査によって骨の状態を詳しく確認します。さらに必要に応じて、CTやMRIなどの高度な検査を行う場合もあります。

ただし、後肢の跛行や歩き方の異常は、踵骨骨折だけでなく、他の病気やケガの可能性もあります。

膝蓋骨脱臼(パテラ)
前十字靭帯断裂
アキレス腱の断裂
股関節形成不全
レッグ・ペルテス病(大腿骨頭の血流障害による壊死)

これらは症状が似ているため、正確な診断には豊富な知識と経験が必要です。
そのため、少しでも異変を感じたときは、整形外科に詳しい動物病院や専門の獣医師に相談することがとても重要です。

 

治療法

犬の踵骨骨折に対する治療は、外科手術による整復が基本となります。整復とは、ずれてしまった骨を元の正しい位置に戻す治療法です。

骨折が起こると踵骨の位置がずれて、場合によってはすねの骨(脛骨)の方向に引っ張られてしまいます。そのため手術では、ずれた踵骨を正しい位置に戻し、その状態を維持するための固定が必要になります。

主な方法としては、「ピン」と「テンションバンドワイヤー」と呼ばれる器具を使って、折れた骨をしっかりと安定させる方法がよく行われます。これにより、骨が少しずつ癒合していきます。

 

踵骨骨折の手術について、当院での症例をご紹介します。

この先、手術中の画像が含まれます。苦手な方はご注意ください。

犬の踵骨骨折をピンとワイヤーで整復している様子。左は整復後のレントゲン、右は手術中に骨を固定している写真。

犬の踵骨骨折をピンとワイヤーで整復している様子。左は整復後のレントゲン、右は手術中に骨を固定している写真。

 

 

手術には他にも、プレートとスクリュー(板とネジ)を使って骨を固定する方法や、創外固定(そうがいこてい)といって、皮膚の外側から金属のフレームを装着して骨折部を安定させる方法があります。

これらの手術は、骨を本来の位置に戻すことで痛みを和らげ、後ろ足の機能を早く回復させることが期待できます。

 

一方で、手術にはいくつか注意すべき点もあります。
例えば、全身麻酔に伴うリスクや、術後に感染を起こす可能性、固定した器具がずれてしまうこと、さらに骨がうまくくっつかず、癒合が進まない(癒合不全)状態になることなどが考えられます。

そのため、手術を行うかどうか、またどの方法を選ぶかについては、愛犬の年齢や体格、骨折の状態、全身の健康状態などを総合的に考慮する必要があります。

 

手術後の経過とケア

踵骨骨折の手術を受けたあと、入院期間はおよそ1週間程度で退院できることが多いですが、退院後もご自宅での慎重な管理が数週間ほど必要になります。

まず、最低でも4〜6週間は運動を控え、安静に過ごすことが大切です。
痛みがある場合は、獣医師から処方された痛み止めを正しく服用し、落ち着いた静かな環境でしっかりと休ませてあげましょう。

また、ご自宅での傷口のケア(創傷管理)も重要です。獣医師の指示に従い、定期的に包帯の交換や傷の状態を確認しましょう。
このとき、もし以下のような変化が見られた場合は、すぐに動物病院に連絡してください。

・傷口の腫れがひどくなる
・膿が出ている
・発熱している
・食欲がなくなる
・いつもと様子が違う、元気がない

また、術後には腫れや炎症をおさえるために、テーピング(包帯などでの固定)を行うことがあります。

 

踵骨骨折の予防方法と注意点

踵骨骨折は、高い場所からの落下や、急なジャンプ、激しい運動などが原因で起こりやすいケガです。特に小型犬や高齢の犬では骨がもろくなっていることもあり、注意が必要です。
日常生活の中では、年齢や犬種に合った適度な運動量を意識し、過度な運動や無理なジャンプは控えるようにしましょう。

また、滑りやすい床は足元が不安定になり、思わぬケガにつながることがあります。フローリングには滑りにくいマットを敷いたり、ソファやベッドなどの高い場所にはステップやスロープを設置して、より安全な環境を整えましょう。

 

まとめ

犬の踵骨骨折は、高い場所からの落下や交通事故などによって起こりやすい骨折のひとつです。踵骨はアキレス腱とつながっており、歩行やジャンプといった日常の動きに深く関わっているため、骨折すると後ろ足の機能に大きな影響を及ぼします。そのため、正確な診断と、整形外科的な知識に基づいた適切な治療が必要です。

当院では、整形外科治療にも力を入れており、私自身も国際的な整形外科研修「AO VET Master Course(修士課程)」を修了しております
その知識と経験をもとに、愛犬の状態に合わせた丁寧な治療を心がけています。

「歩き方がおかしい気がする」「後ろ足をかばっているように見える」など、少しでも気になるサインがあれば、お早めにご相談ください。

大切なご家族である愛犬の健康を守るため、しっかりとサポートさせていただきます。

 

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電話番号:0463-84-4565
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