症例紹介

内分泌科

犬の甲状腺腫瘍|首のしこりや呼吸の異変に注意

神奈川県秦野市・伊勢原市・平塚市・中井町・二宮町・小田原市にお住まいの皆さま、こんにちは。
神奈川県秦野市の「みかん動物病院」、獣医師の森田です。

甲状腺は、首の気管の左右に位置し、代謝や成長に関わる大切なホルモンを分泌する器官です。

犬の甲状腺腫瘍は発生率が低いものの、その多くは悪性の甲状腺癌とされています。初期のうちは症状がほとんど見られないこともありますが、腫瘍が進行すると首にしこりが触れる、呼吸が苦しそうになる、食欲が落ちるといった変化が表れることがあります。

悪性腫瘍の場合、周囲の組織に広がったり、肺などの遠隔部位に転移したりするリスクが高いため、早期発見と適切な治療がとても重要です。

今回は、犬の甲状腺腫瘍の症状、診断方法、治療法について解説します。

 

■目次
1.甲状腺とは?
2.犬の甲状腺腫瘍の種類と症状
3.診断方法
4.治療法
5.予後とケアについて
6.まとめ

 

甲状腺とは?

甲状腺は、首の前側(お腹側)にあり、気管の左右に沿うように位置する器官です。左右に1つずつ対になっており、その近くには「上皮小体(副甲状腺)」と呼ばれる小さな器官があります。上皮小体は、血液中のカルシウム濃度を調整するホルモンを分泌する重要な役割を担っています。

犬の首にある甲状腺の位置と、副甲状腺(上皮小体)の図解

甲状腺の主な働きは、「甲状腺ホルモン(チロキシン:T4、トリヨードサイロニン:T3)」の分泌です。これらのホルモンは、代謝の調整、体の成長や発達、臓器の機能維持など、犬の健康を支える重要な働きをしています。

甲状腺が正常に機能している間は、犬の体は健康を維持し、エネルギー代謝や体の機能がスムーズに調整されます。

しかし、腫瘍が発生するとホルモンの分泌バランスが崩れ、体のさまざまな機能に異常が生じることがあります。そのため、甲状腺の正常な働きを理解しておくことはとても大切です。

 

犬の甲状腺腫瘍の種類と症状

犬の甲状腺腫瘍には、良性の「甲状腺腫」と悪性の「甲状腺癌」の2種類があります。

◆良性腫瘍:甲状腺腫
甲状腺腫は比較的ゆっくりと成長し、周囲の組織に広がりにくい(浸潤しにくい)腫瘍です。また、転移することはほとんどありません。発生しやすい犬種の報告はありませんが、中高齢の犬に多く見られるとされています。

 

◆悪性腫瘍:甲状腺癌
一方、甲状腺癌は進行が早く、大きくなりやすいことが特徴です。さらに、周囲の組織に広がりやすく(浸潤)、肺やリンパ節へ転移するリスクが高いため、注意が必要です。小型犬よりも大型犬に多い傾向がありますが、どの犬種にも発生する可能性があります。こちらも中高齢の犬に多く見られる疾患です。

 

<飼い主様が気づける初期サイン>

甲状腺腫瘍は、早期に発見することがとても大切です。飼い主様がご家庭で気づける症状として、次のようなサインがあります。

首のしこり(触ると小さなしこりがある)
飲み込みにくさ(むせる、飲み込むのに時間がかかる)
声の変化(かすれる、鳴き声が変わる)
体重減少(食欲があるのに痩せてくる)

また、元気がない、呼吸が苦しそう、飲み込みに違和感があるといった症状が1週間以上続く場合も要注意です。

特に悪性腫瘍は進行が早く、転移のリスクがあるため、少しでも異変を感じたら早めに動物病院を受診しましょう。

 

診断方法

甲状腺腫瘍の診断には、以下の検査が行われます。

問診・身体検査:飼い主様からの情報をもとに、しこりの有無や犬の全身状態を確認します。
血液検査:甲状腺ホルモンの数値や、全身の健康状態をチェックします。
画像検査(エコー・レントゲン・CT・MRI):腫瘍の大きさや、周囲の組織・肺への転移を確認します。
細胞診・組織生検:腫瘍の一部を採取し、良性か悪性かを判定します。

さらに、腫瘍の進行度を評価するために「TNM分類」を用います。

犬の甲状腺腫瘍に関するTNM分類の表。Tは腫瘍の大きさ、Nはリンパ節への浸潤、Mは遠隔転移の有無を示す。

この分類をもとに、腫瘍の進行度(ステージ)を判定します。

犬の甲状腺腫瘍のステージ分類の表。ステージIは腫瘍が小さく浸潤がない。ステージIIは腫瘍が大きいが浸潤なし。ステージIIIは浸潤あり。ステージIVは遠隔転移(肺やリンパ節)がある。このステージ分類により、適切な治療方針を決定します。

 

治療法

腫瘍の進行度によって治療法が異なります。

ステージⅠ・Ⅱ:外科手術
腫瘍が周囲に広がっていない場合、外科手術による摘出が第一選択となります。
ただし、手術で甲状腺を摘出すると甲状腺ホルモンが不足するため、生涯にわたる甲状腺ホルモン補充薬の投与が必要になります。
また、甲状腺の近くには「上皮小体(副甲状腺)」があり、手術の影響で血中カルシウム濃度が変動することがあるため、術後は慎重な経過観察が必要です。

 

ステージⅢ・Ⅳ:外科手術+放射線療法・抗がん剤治療
腫瘍が周囲の組織に広がっている場合や、遠隔転移がある場合は、外科手術で可能な範囲の腫瘍を取り除いた後、放射線療法や抗がん剤治療を組み合わせることが一般的です。
特に甲状腺癌は進行が早いため、早期発見・早期治療がとても重要です。

 

甲状腺腫瘍の摘出手術について、当院での症例をご紹介します。
この先、手術中の画像が含まれます。苦手な方はご注意ください。

犬の甲状腺腫瘍摘出手術の経過。1枚目:首の右側に腫瘍が確認される。2枚目:皮膚を切開して腫瘍が視認可能に。3枚目:気管の近くにある腫瘍を慎重に剥離。4枚目:血流を遮断し安全に摘出。5枚目:摘出された腫瘍、検査の結果甲状腺癌と診断された。

 

予後とケアについて

犬の甲状腺腫瘍の予後(治療後の経過や見通し)は、以下のような要因によって大きく異なります。

・腫瘍が良性か悪性か
・腫瘍の大きさや浸潤の程度
・転移の有無(肺やリンパ節への転移があるか)
・治療方法(手術のみか、放射線・抗がん剤治療を併用したか)

治療後も定期的な経過観察がとても大切です。動物病院での身体検査・血液検査・画像診断(エコー・レントゲンなど)を受けながら、再発や転移の有無をしっかり確認していきましょう。

 

<ご自宅でのケアポイント>

ご自宅でも、首元に再びしこりができていないか、咳や息苦しさがないかを注意深く観察してあげましょう。
治療後は、できるだけストレスの少ない環境を整え、愛犬が安心してゆったり過ごせるようにケアしてあげてください。

 

まとめ

犬の甲状腺腫瘍は、早期発見と適切な治療、そして治療後の継続的なケアがとても重要です。日々の些細な変化にも気を配り、首元のしこりや呼吸の異変、食欲の低下などが見られた場合は、早めに動物病院へ相談しましょう。

当院では、甲状腺腫瘍に関するご質問やご相談を随時受け付けております。どのようなことでも、お気軽にご相談ください。

 

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